原発での事故隠ぺい相次ぐ

http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20070323k0000m040164000c.html

北陸電力志賀原発の臨界事故隠しが出てすぐに今度は東京電力原発で事故の隠ぺいです。

原発制御棒脱落:抜け落ちた安全 東電、28年間情報秘匿

 北陸電力中部電力東京電力と次々と明らかになる制御棒脱落事故。22日明らかになった東電福島第1原子力発電所福島県)3号機で起きた78年11月の事故では、最大7時間半にわたって臨界状態に達した可能性がある。沸騰水型原発で問題が起きやすく、「泣きどころ」とさえ言われる制御棒の脱落。28年もたって表面化する情報の秘匿。地元では安全への不審が、怒りに変わった。

 ◇制御棒を戻すのに7時間以上

 「調査中で不明な部分が多いが、重い問題だととらえ、分かったことを発表します」。東電の小森明生・原子力運営管理部長は会見で話した。

 小森部長によると、東電ではしばらく前から「福島第1原発で制御棒抜け落ちのようなことがあった」との証言があったが確認できなかった。

 このため原子炉メーカーの東芝に社内調査を依頼した。21日深夜に東芝から、制御棒5本が抜け落ちた事実を示す社内メモが見つかったと連絡があった。うち、4本はまとまって落ちていた。メモには、中性子測定装置が午前3時ごろから約7時間半にわたって測定限界に達していたことを示す手書きグラフや、抜け落ちた制御棒の位置、抜けた長さなどが記されていた。

 22日午前に東電は、同原発3号機で当時、「副長」として原子炉の運転に責任を持っていた元社員に連絡をとった。すると「(朝8時半ごろ)出勤すると、計器盤の前に数人の運転員が集まって相談していた。はっきり覚えていないが、制御棒5、6本が抜けていた。自分が指示し、各制御棒の緊急挿入装置を使って元に戻した。この話はほとんど他人にしたことはない」との証言が得られたという。

 臨界が長時間続いたとみられることについて小森部長は「制御棒が動けばそれを示す警報が、さらに臨界になれば中性子量が上がったとの警報が鳴るはず。制御棒を戻すのに7時間以上かかったのは、私にも不可思議だ」と残念そうに話した。【高木昭午】

 ◇東電、当時の認識甘く

 福島第1原発3号機の事故は78年で、北陸電力志賀原発の臨界事故に端を発して明らかになった一連の制御棒脱落の最初のケースだ。小森部長は「当時、公表し、原因究明などをしていれば、後のケースは防げたと思う」と語った。

 当時は国に報告すべき事象が法令で定められていなかったため、東電はこの事故を報告していなかったことが「法に触れるものではない」との立場をとっている。

 東電によると、当時、中央制御室には11人の運転員がいたとみられるが、運転日誌には制御棒が抜け落ちたことも、中性子の量が増えたことも記載されていない。約3カ月後には、5号機で制御棒1本が抜け落ちており、発電所内での原因究明や再発防止さえ不十分だったとみられる。

 「隠したのか」という記者の問いに、小森部長は「現時点でそう申し上げる情報はない」と語り、「今なら当然、記載すべき事項だが、(3号機は76年3月に運転開始で)当時は運転経験も浅く、法令でも定められていなかった。改ざんや隠ぺいというより、むしろ『大したことではない』と認識したのではないか」と話した。

 一方、東芝広報室は「隠した認識はない。情報共有は電力会社がすべきことだ。一メーカーの判断で、電力会社の許可なく(トラブルを)公表することはない」と話している。【西川拓】

 ◇プルサーマル影響必至

 02年の点検を巡るトラブル隠しで白紙撤回した「プルサーマル計画」への地元同意や原発増設問題に、大きな影響を与えるのは必至だ。

 福島県では、国の原子力政策に厳しい姿勢を堅持してきた前知事が談合事件絡みで辞職し、同計画に県の姿勢が前向きに変化する可能性も指摘された。しかし、昨年末以来、データ改ざん、原子炉緊急停止の隠ぺい、第2原発3号機での制御棒脱落と不祥事が次々と発覚し、県の姿勢は明らかに硬化している。

 佐藤雄平知事はこの日、「まさに、がく然としている」とぶぜんとした表情で語り、同計画について「議論以前の問題だ」と再考の余地はないとの見解を示した。

 第1原発3号機は98年11月に同計画実施を福島県大熊町などが容認した原発だが、同町の志賀秀朗町長は「トラブルが度々報告されると、もう面倒を見切れなくなる」と怒りをあらわにし、「脱原発福島ネットワーク」の世話人、佐藤和良いわき市議は「東電からは原発の運転免許をはく奪すべきだ」と語った。【坂本昌信】

 ▽福島第1原発の建設に77年までかかわった元原発設計者で科学ライター、田中三彦さんの話 78年は米スリーマイル島原発事故の前年で、世界はまだ、大きな原発事故を経験していなかった。当時この事故が公表されていたら、国際的に大きな注目を集めたはずだ。福島第1は、東芝(3号機など)、日立(4号機)が製造しており、3号機事故について、両社や東電は情報をかなり共有していたに違いない。各社が隠し続けてきたのは、それが臨界にかかわる重大問題だったからではないか。

 ■ことば(臨界) 原子核の分裂が連続して起こる状態。原発の燃料のウラン235は中性子が衝突すると核分裂し、新たに複数の中性子を放出する。それが周辺のウランとぶつかって連鎖反応し、大きなエネルギーを出す。原発では原子炉内で生成される中性子を制御棒に吸収させて臨界を制御し、出力を調整する。臨界事故は、こうした制御が利かなくなった状態。

これでは、国の原子力政策に水を差しかねない事態です。そして、行政は国民にどう説明責任を果たすのでしょうか。安全対策はもとより、情報の透明性の確保が急務ではないでしょうか。